「加山雄三 全仕事」

 デビュー45周年記念特別出版

(2005年4月発行)

そう。

石井)それから5分に1回、必ず笑いをちゃんとつけてくれてる。あとね・・・。

痛快なんだよね。

石井)痛快だし、ちゃんと人情に即しているんですよね。あの作り方が、あれはおもしろいですね。

それで時代背景というものをちゃんと考えてるし、心理をよく読んでててさ。黒澤監督がもう全部頭の中で描いて、そのとおりのことを映像化してる。ああいう人っていうのは、ホントすごいなと思うけど。アニメの世界では宮崎駿さんていうのはやっぱり、すごいと思うな。

石井)はい。

あの人は自分で、あなたと同じようにさ、キャラクターからなにから全部自分で考えるわけじゃない。

石井)そうそう。

それをCG化していくわけでしょう。あるいは手描き、最初のころは手描きがほとんどだよな。

石井)手描きです。宮崎さんはね、大事なシーンはね、アニメーション、自分でつくるんですね。

へーッ。

石井)それでパラパラ漫画みたいにして、こういう動きでやるからって言うらしいですよ。すごいなと思う。

これはすごいことだよ。

石井)ええ、なんであんなにバイタリティあるんですかね。

あのね、終戦後、ちょうど小学校入るか入らないかぐらいからだと思うんだけど、やっぱりね、すごい飢餓状態の中で小学校時代を過ごしてるっていうことなんだと思うんだよ。あの人も俺とそんなに(歳が)変わらないでしょう。

石井)加山さんより少し下ぐらいじゃないですか?

それでも、中学校ぐらいまではやっぱりモノがない。食い物もあんまりない。モノが溢れてる今と違って、なんにもないわけだよ。そうするとやっぱり飢餓状態だから、自分でなにか工夫するというかさ、自然のそばにいれば自然と戯れることで楽しみを見つける以外にないわけだ。それがやっぱり好奇心というものを旺盛にしたのかなと思うね、俺はどうもね。

石井)「椿三十郎」の頃の方で、加山さんが今でも仲のいい方っていうと、どんなお名前が出てくるんですか?

この業界では親しくしてる人、尊敬してた人、ずいぶん死んじゃったもんね。

石井)あー。

同年代っていうとまあ、江原のタッちゃん(江原 達怡)ぐらいかな。長野の安曇野にね、夢穂高美術館っていうのを自分で持ってて、黒澤さんの絵だとかがある中に、俺の絵が一枚だけ飾ってあるけどね。

石井)ああ、そうなんですか。

ちゃんと買ってくれたんだよ。一番最初に俺の絵買ったのはあいつかもしれないな、もしかしたら。同い年なんだけどね。で、岡本喜八監督が亡くなったでしょう。そこで佐藤まこちゃん(佐藤允)とか、みんなで顔合わせて、もっと当時のいろんな人がいるかと思ったけど、考えてみたら、「独立愚連隊西へ」の時にしてみても、フランキー堺さんもいないんだよな、もう。

石井)そう考えると、あの当時、音楽をやってて、それから役者をやり始めた方って多いんですよね。

そうだろうか。

石井)フランキーさんもそうですよね。

ああ、フランキーさんはそう。あの人はもともとドラム叩いていた人で、ミュージシャンだったから。俺は逆だけど。

石井)えっ、加山さんは音楽が始まりじゃないんですか?

違うよ、俺は先に俳優だよ。

石井)ああ、そうなんですか。

音楽っていうのは趣味でもちろんやってたけど。

石井)でも世間的にはぼくの世代くらいでも、加山さんていうと、音楽家で、それで役者もやってるっていうふうなイメージがありますよ。。(笑)

あのね、俺はね、職業書くとき、俳優って書くの。英語で向こうに書類出すときはアクター。シンガーとは一度も書いたことない。趣味で歌い、趣味で作曲して、趣味で画家やってるっていうだけのことで、俳優が本業なのにさ、もう10年以上、お茶ひいちゃってるよ、ホント(笑)。

石井)それはもう自分が納得できるものがないと。

そうなの。いや、それでね、作品は来るのよ、シナリオ持って来るんだけど・・・。それで俺が、すいません、これ、おもしろくないんですけどって言って帰って、誰かが代わりにやるんだよ。そうすると必ずコケてるよ。

石井)ぼく思うんですけど、ジェームス・ボンドの役を日本人で探せっていったら、もう加山さんしかいないですよ。

ウッソつけよ、そんな・・・。

石井)いや、そうでしょう。

俺はあんなカッコよくねえよ。

石井)いや、ジェームス・ボンドの役ができる日本人っていったら、もう加山さんしか僕はいないと思います。あと、総理大臣とかの国家を司る役とか・・・。

その作品には遠慮したんだけど、現実に政治家になってくれっていう話は、もう延々と来てたけど・・・。だけど、カミさんがね、俺がもし政治家になったら、おいとまいたしますって。

石井)これだけの知識と経験と、自分の・・・。

いやいや、カミさんが嫌だっていうの。

石井)ははあ。

カミさんは、絶対政治家の奥さんにはならないと。苦労が多いから。で、人前に出ていくのがあんまり好きじゃないから、もともと。

石井)いいことやってあたりまえ。悪いことやったら大変ですからね。

そうでしょう。それで、いいことったって、そうできるわけじゃないから、派閥の中でさ。でもね、大統領制度が取り入れられたら、俺はやりたいなと思ったことがあった。

石井)大統領、似合いますよ。

アメリカと同じ、二大政党になって、大統領制になったらば、まあ、若いときだよ。俺が50ぐらいだったら、それぐらい考えて、少し勉強しようかなと思うけどさ、まあ、いまはもう政治の世界のことなんてなんにもわからんし、政治の仕組みだってね、もうあんまり、考えるとね、頭痛くなるからやめるんでね。

石井)外国の首脳陣と会ったときの日本の首相って、なんて貧相なんだろうって、ぼく、毎回思うんですよ。だから、加山さんみたいな人がね、中心になって・・・。

あんた、やりゃいいじゃない。

石井)遊び人がなってるみたいじゃないですか。遊び人国家になっちゃいますよ(笑)。

日本のスタンダード
石井)これから重点的にやってみたいなっていうのは、どこら辺ですか?

あんまりないんだけどね。

石井)例えばコンサート活動だけはがっちりやってみようと思うとか。

そうだね、コンサート活動というのはどこまでできるか。自分の声が出るかぎりは生涯現役でいたいと思うけど、どっかでケリつけなきゃいけないとは思ってるけどね。・・・。

石井)海外でコンサートをやるっていうのは、加山さんはすごく似合いそうな気がしますね。向こうって、オールディーズの、本当に昔の歌を大事にしてますね。

そういうのを日本人が日本語で歌い始めた時代に、俺は学生だったんだよ。ものすごく嫌だったんだよね。自分たちは英語でそのまんま歌って、コピーではないんだが、それでもう本当に発音をよくしようってことでね、テープレコーダーに自分たちの音を録って訓練してた。で、あるとき、米軍キャンプにトラ(エキストラ)で行ったんだよ。そしたら、そのときにものすごいウケたのよ。それで自信つけたの。

石井)そうなんですか。

だから、英語の曲を歌わせるとなんとかいけるわけ。ところが、自分で作った日本語の歌っていうのは、ホント、これまるっきりダメだなあと。下手なんだ。1回作った曲をだれかうまい人に、歌ってもらってさ、それを俺がコピーするのがいいかもしれない。それを考えたことあるんだよ。だから、森進一さんにまず歌ってもらってもいいかなと思ったこともあるね。「(物真似で)夜空を仰いでーッ」ってやったら、きっとそれ、真似して歌ったと思う(笑)。

石井)なるほど、でも、あんまりクセ強い人のはやんないほうがいいんじゃないんですかと。

加山)そうだな。そうなるとやっぱ、俺の歌、日本語でペリー・コモに1回歌ってもらいたかったなと思って。

石井)ああ、逆発想でね。それもおもしろいですよ。

でも、ニック・ペリートさんがね、俺の船に来たときに、俺のために作詞、作曲してくれたんです。

石井)えーっ。

「ドゥー・ユー・リメンバー・ミー」っていうのはもうレコーディングしたんだよ。バースも全部入って。それでレコーディングしたのは、俺が最初。バース抜いたやつはさ、その後からペリー・コモがレコーディングしたんだよね。でも、俺のほうが先に歌ったっていうのは嬉しいじゃない。で、同時録音やったんだよ、当時。60何人のオーケストラと一緒に。スタンダードのアルバムを2枚録った。

石井)それはいつ頃なんですか?

今から20何年前かな。

石井)じゃあ、もうすでにレコーディング・システムは確立してるから、そんなふうに録らなくてもよかったはずですよね。でも、あえて一発録りをしたと。

そう。そのほうがね、やっぱり臨場感があるっていうか、ノリが違うんだよね。俺はね、大体考えすぎ。テイク・ワン・シンガーってよく言われるんだよ。テスト2回ぐらいやって、じゃ、本番いこうかってやった最初が一番いいの。

石井)ああ、わかります。

やっていけばやっていくほど、だんだんダメになっていくのよ。それでまた元に戻って最初のをもらいましょうって。で、変なとこだけ直しちゃう。

石井)そういう人はね、基本的にうまい人なんですよ。

そんなことはない。下手だから、何遍もやってるとどんどん下手になってちゃう。自信喪失してくるんだよ。

石井)そんなことはないでしょう(笑)。ところで、ぼくは、「60 CANDLES」の時に加山さんからいただいたフェンダーのギター、まだあれでレコーディングしてますよ。

ああ、本当に?

石井)ええ。

あの時歌ってくれた「君といつまでも」には驚いたね。こんなにうまく歌えるんだと思ったもん。それと台詞がやっぱりテレてて。俺の言うとおりにやらないであそこまでいったっていうのは、ああ、よかったな、すごいよと思ったね。

石井)はぁ。

だから、俺、最近は、「恋は紅いバラ」っていうので、「ぼくは君が好きなんだ、だけど、そいつが言えないんだな。でもね、僕は君を幸せにする自信はないけど、幸せになる自信はあるんだ。」っていうふうに変えたんだよね(笑)。

石井)自信はないうけどって、すごい自分勝手ですよね(笑)。

加山)そしたらバカ受けしちゃってさ。

石井)トリビュートっていうのは日本ではあれが最初でしたよね。

加山)そう、やっぱりいろんな壁があったでしょう。それを乗り越えてね。

石井)っていうか、ほかにいないですよ。ほかの方でああいうことをやろうといっても、作品がないし、それにメロディラインによりますよ。やっぱり古臭くなっちゃうメロディと、あんまり古くならないメロディってあると思うんです。

いいこと言うね、今日はいいこと言うね。

石井)いやいや、すごく、そう思いますよ。全然古くならない・・・。

また船に乗りに来てよ(笑)。

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2012年01月01日新設