加山雄三・心の音楽紀行

 〜プレスリーの人生をたどるアメリカ南部の旅〜

        〜後 半〜

加山さんの音楽の原点ともいえるエルヴィス・プレスリーの人生をたどって、メンフィス、ナッシュビルを2週間に渡って旅をした時のドキュメンタリー番組です。加山さんの音楽に対する深い愛を感じさせてくれる番組でした。

 2000年5月NHKBS2にて放送
 ナレーションも加山さんが担当されてます。

メンフィスの、西側を流れるミシシッピー河のほとりにぼくは立ってみた。エルビスも、かつてはこの大いなる川を前に、こうしてたたずんだのであろうか。
そしてぼくは、エルビスに自分自身を重ね合わせてみた。

(”ラブ・ミー・テンダー”と
”君といつまでも”を歌う)

エルビスが生きたあの時代、ぼくが生きているこの時代。時の流れをこの大いなる河は、ずっと見守っている。僕の気持ちは、エルビスと時を超えて繋がっているように思えた。

メンフィスをあとに、ハイウェイ40号線を走る。およそ300キロ離れたナッシュビルへとぼくは向かった。黒人音楽を発信し続けるメンフィス、黒人のカントリー・ミュージックの中心地として知られるナッシュビル。二つの街を結ぶこの道は、通称”ミュージック・ハイウェイ”と呼ばれ、多くのミュージシャンたちが行き来する音楽の道。
エルビスはデビュー以降、メンフィスの自宅とナッシュビルを数え切れないほど往復して、自分にしか作ることの出来ない新しい音楽を胸に描いて。それは、自分に対する大きなチャレンジだったのだろう。これから向かうナッシュビルという街で、ぼくも一つのチャレンジをしてみようと思った。

エルビスを育んだアメリカ南部、ナッシュビルへの途中、その風景をぼくは心に刻んでおこうと思った。
(スケッチする加山さん。)

今、ここにいるからできること、そして感じられることがある、そんな気持ちを大切にしたいと思った。

スケッチに興じる。        描かれた絵。
テネシー州ナッシュビル、エルビスの音楽を語る上でゴスペルと同様に欠かせないのが、この街に古くから根付くカントリー・ミュージックである。
ナッシュビルといえば「グランド・オール・オーブリー」、カントリー専門のその公開番組は、なんと70年以上も歴史を誇っている。一流のミュージシャンのみが出演できるこのライブショーに、実はエルビスも1954年、一度だけステージに立っている。
「トラックの運転手に戻ることを、考えたほうがいいよ」と、当時の司会者に言われた彼は、ハイウェイ40号線を泣きながら、メンフィスへ帰ったという。
カントリー音楽にも、ゴスペルと変わらぬ愛情を注いでいたエルビス、好きなものから拒絶される、それがどれほど辛いことか、
そのときの彼を思うと僕の胸も痛む。

1950年代、エルビスを拒んだ町のひとつナッシュビル。公園では、彼のレコードが600枚も焼かれたという。
だが、それからほぼ半世紀がたった1998年、エルビスはカントリーの殿堂入りを果たした。歴史を変えたのは、彼の音楽への情熱なのだと、ぼくは信じている。

音楽が溢れる街、それは同時に音楽への愛情が試される街ということ。ここはぼくを受け入れてくれるのだろうか。街に溢れる音楽を肌に感じてみたくて、ぼくは歩いてみた。

メンフィスの街を歩く(1)。   メンフィスの街を歩く(2)。
(楽器屋さんへ入る、加山さん。)

ギターは、カントリーミュジックの花形楽器、最高の一本を手に入れるために、世界中から有名ミュージシャンたちもこの街にやってくる。ギターの本場アメリカで作られた、名器の数々がある。見ているだけでワクワクする。

やっぱり高いよね、いいなと思ったら。

(ギターを奏でる加山さん。)

やっぱり高いよね、いいなと思ったら。

エルビスも、ここナッシュビルでギターに胸をときめかせたんだろう。

1955年、エルビスは所属レコード会社を替わった。レコーディングの拠点をナッシュビルに移した。彼がこの街に居る間、宿泊していたのがこのホテルだ。

実はこのホテル、ナッシュビルを度々訪れるようになったエルビスが、くつろいでレコーディングをしてほしいと、彼の友人がわざわざ建てたもの。
ぼくが泊まることになったこの部屋は、通称「エルビス・ルーム」と呼ばれ、彼のためにつくられた特別な空間。
エルビスの歌声は、こんな友情にも支えられていたのだ。

なるほど〜!?
びっくりしちゃうなあ、そこらじゅうエルビスだよ。へえ〜!?プール見て、最高!

エルビスが立ったであろうこの窓辺から、ナッシュビルの景色を見る。
ぼくは、この部屋で新しい曲を作ろうと思った。

通称「エルヴィス・ルーム」
そこらじゅうエルビスだよ。 ギターの形のプール。

ナッシュビルの夜、音楽好きのこの町の人たちは、眠っている暇もない。街のいたるところに軒を並べるカントリー酒場、ミュージシャンもお客さんも、ここではあらゆる人たちが音楽を心から楽しんでいる。

かつて、エルビスが出演したカントリーミュージックの名物番組「ミッドナイト・ジャンボリー」、53年の伝統を誇る、この深夜のラジオ生放送、今夜も全米のカントリーファンが、耳を傾けていることだろう。ぼくは幸運にも、この番組に出演することが出来た。

やばいよ、こんなになっちゃってるよ、ドキドキだよ!

そして、いよいよぼくは、エルビスと同じステージに立つことになった。

コンテストに、出るようなもんだよ。すごい緊張しちゃって、喉がカラカラ。こんなの初めて!

やばいよ、こんなになっちゃってるよ、ドキドキだよ!
司会者)太平洋を越えてやってきた、YUZO KAYAMA!

ぼくは、カントリーを聞いて育ったので、この音楽が大好きです。そしてエルビス・プレスリーの歌を大好きです。ぼくは、アメリカのお客さんの前で歌うのは、これがはじめてです。これから1曲歌います。気に入ってくれたらうれしいですね。
(と英語で話し、”FOR THE GOOD TIMES”を
歌いました。)

ぼくが選んだこの曲は、カントリーの巨人、レイ・プライスの大ヒットナンバー。エルビスもこの曲をこよなく愛し、コンサートでよく歌ったという。

次は、ぼくのオリジナル・ソングを歌いたいと思います。日本語なので、歌詞はわからないと思いますが、歌の意味は
「お嫁においで」です。

司会者)YUZO!すばらしかったよ!きっと日本は、アメリカの次にカントリー音楽があふれているんだろうね。本当にありがとう!すごくよかったよ!

”FOR THE GOOD TIMES”と”お嫁においで”を歌う。
50年以上続いているという「ミッドナイト・ジャンボリー」、あれがリラックスの、不思議な感じがしたんだよね、ステージをやるほう、聞くほう、その空間にいる人たちが、楽しんでいるんだけれども、自然に中に溶け込めて、みんなスゲー上手いんだよな。

だからといって、特別な扱いを受けるでなし、特別な賞賛を受けるわけでもなし、みんなが平均してよかったらよかったと。エルビスが、泣きながら帰ったというその心境とシンクロするところがあって、厳しさシビアーなものとか、それでいながら、ぼくがたまたま日本人であることで温かく迎えられたけど、複雑な気持ちでね。為になったと思う。

エルビスの人生と、彼の愛したアメリカの音楽を肌で感じたこの旅。ぼくは新しい曲を作っている。今、このときに、今このアメリカにぼくがいるからこそ、生まれるであろう曲。
そこには、どんな自分が映し出されるのであろうか。

(「YES」を作曲中。)

音楽の町、ナッシュビルを象徴するかのように、このあたりの地区には、70以上ものレコーディング・スタジオがひしめいている。ぼくが向かったのは、エルビスがナッシュビルでのレコーディングに使っていた「RCA スタジオ B」。

今回、ぼくのレコーディングのために、ナッシュビルの顔とも言える一流ミュージッシャンたちが集まってくれた。その中には、エルビスの演奏を手掛けたチャーリー・マッコイ、そしてデービット・ブリックスの姿もあった。

なにしろ、ミュージシャンが超一流だというのはわかるよ。
楽しいや。

いよいよレコーディング開始。エルビスがこのスタジオで録音した、この曲から始めることになった。

”I WANT YOU I NEED YOU I LOVE YOU”

「RCA スタジオ B」。 ”I WANT YOU I NEED YOU I LOVE YOU”を歌う。
エルビスがやったのは、今から40年くらい前だと思うんだけど、そのまんまこういうのが残っていることは、すごいことだよな。
また俺たちがそういうのを聞きながら、心の中にエルビスの音楽がいつまでも生きている、つまり彼のマインドっていうのは、あのときしか、出ないものだろうけど、我々は受け継いでそのすばらしさをいつまでも、心の中に秘めているというのか。それをこういうところで40年経った今、ぼくがそういう仲間に出会ってまた、やれるということを、すごく不思議だなと思うね。というかみんなに感謝しないとねえ。

そして、ぼくがこの旅で作った曲の打ち合わせが始まった。(新曲「YES」が、収録されました。)

スタッフと打ち合わせ。 「YES」を歌う。

エルビスがいたからこそ、この旅で様々な人たちと、そして様々な音楽と、ぼくはめぐり合うことが出来た。
この体験は、これからもぼくの心の中で、大切な宝物となっていくことだろう。人生という、ぼくの旅が続く限り。

あのね、そうね、デッサンに色づけできたっていう感じかな。今までそのすべて、まあ海を越えて入ってきた情報から、自分として音楽っていうものを、聞いたり楽しんでたりしたものが、生んだほうからの立場に立って、一回馴染んで溶け込んで、歴史を見て、いろいろ自分なりにデッサンしたものが、色付けができたって思う、そんな旅だね。

また新たな心のデッサンを求めて・・・

ー加山雄三ー

終わり。

10年09月16日新設