進化してこそ現役若大将
(毎日新聞 7月24日号 東京夕刊)
       

 4月11日、加山雄三は77歳の誕生日を、東京・渋谷のオーチャードホールで迎えた。持ち歌が大ヒット曲ばかりのうえ、話題も豊富。ステージに出ずっぱりである。それを当たり前のように感じる観客がいる。感じさせる喜寿がいる。夢のような非現実が目の前に広がっていった。

 時は、すべての人に平等に同じ長さであまねく覆いかぶさるものと思っている。が、こと若大将・加山雄三に対してだけは、別の時間が流れていると感じることが多い。が、加山は「若い」ということにさして大きな意味を持たず、かといって「老い」にも特別な感慨を抱くわけでない。「今」を受け入れそれを最大限に使う。つまり「今」を生きている。

「現役感ってね、自分で思ってるだけ、好きでやってるだけ、同じことやってるだけじゃ生まれない。総力挙げないと。『変わんないねー』と言わせるためには『進化』してないとだめなんだ」

 加山は「ダイエットさせてもらえるのに、お金ももらっている。悪いねー」と言う街歩き番組「ゆうゆう散歩」のおかげで、1年前より引きしまった。“やる気”がさらに
満ちあふれている。

「おれの音楽って、昔のサウンドっぽいだろ? 違うんだなー。いろんなものを新しくしてる。時代の空気感がなければ、ポピュラー音楽なんて聴けたもんじゃないんだ。おれの音楽は若い人が聴いて『生感』のあるもんなんだ。ま、どっちかというと、おれの生き方かなあ」と言って「はっはっは」と照れ笑いした。「生き方」なんて言葉、自分でこそばゆいのだ。

 その例として挙げたのが、キヨサクや佐藤タイジ、タブゾンビら旬の音楽家と組んだスーパーバンド「ザ・キング・オールスターズ」である。ここでは「おれ、ペーペーでいいの」と言いつつ「本気で得意技を出し合う」ことを面白がる。バンドは、27日にフジロックフェス、8月14日には六本木EXシアターに登場する。しかし、加山の今年の動きからすると「手始め」でしかない。

「77歳って特別だねー。だってパチンコだったら、玉がたくさん出そうじゃないか」。そう、今年は「若大将EXPO」の夏なのだ。サブタイトルは「夢に向かって いま」。テーマソングは「Dreamer」(ドリーミュージック)。絵画展、オヤジバンドコンテスト、映画祭、関係場所バスツアー、光進丸レストランと続き、とどめは8月23日日本武道館での“日本最年長ライブ”。

「万博も武道館もいいけど、80歳になった時、自分で設計した災害救助用のエコシップで七つの海を回るんだ」。うれしそうな若大将の夢は、いつも現実になる。それを見ているだけでは、つまらない。時も夢も同じはずなのだから。

2014年07月26日新設