「ソロモン流」エピソードA    

酒とぼく

アルコールの失敗談を披露しよう。東宝へ入って間もなく、茅ヶ崎で叔父のプール開きの日、プールサイドでパーティが開かれた。
 雨が降ってきたので、途中から家の中に移動したが、ぼくはパーティがはじまったころから親友の雑誌社のカメラマンと、ブランデー三本を前に置いて、気炎を上げていた。なにしろ、大きなブランデー・グラスになみなみとブランデーを注いで「おう、一口で飲むんだぞ」などと、おもしろ半分にやっていたのだからたまらない。一時間もたたないうちに、すっかりベロベロになった。
 そのうち二人で
「泳ごうじゃねえか」ということになったがパンツがない。
「男の子だ。かまうもんか」
 生まれたままのかっこうで、まず準備運動というわけで、二人が庭でかけっこをやりはじめる始末。
 この日は東宝の浜美枝さん、星由里子さんら、キレイどころが来ていて、部屋の中からまる見えだ。あわてたおふくろが、窓のカーテンを閉めるやらの大さわぎとなった。
 このあと、どういうきっかけからか
「お前はなんだ」
「きさまこそ、なんだ」
 となぐり合いになったが、両方ともフラフラだから、有効打がなく引き分け。
 つづいてプールにザンブとばかり飛び込んだが、相手は酔っていてぜんぜん泳げない。仕方がないから、引っぱり上げて、また庭をかけっこ。
 そのうち、カメラマンがバラの垣根にぶつかって、トゲに刺されたうえ、庭のすみに掘られたゴミタメの中に落っこちて、空カンやなにかで、身体中傷だらけになってしまったそうだが、ぼくは全然知らない。
 この時以来ぼくはブランデーが嫌いになってしまった。



上記文章は加山さんの著書「若大将半生記 君といつまでも」(報知新聞社 1996年11月5日 初版)酒とぼく より原文のまま記載いたしました。

08年01月01日新設