ラジオ深夜便 「私の好きな日本の風景」

  (NHKラジオ 9月6日)

9月6日に、NHKラジオ第一で放送された、「ラジオ深夜便」に加山さんがゲスト出演され、「私の好きな日本の風景」というテーマでお話されました。その内容をレポートします。

聞き手は須磨佳津江アナウンサーです。

ラジオ深夜便(第一部)

須磨)加山さんの好きな日本の風景はどんな風景?
やっぱり海なるんでしょうか?

ま、やっぱり海が一番多いんじゃないでしょうか、その次が山ですから、「山海の珍味」になっちゃいますが、ホントに自然が好きですね。自分の原風景というのは、子供の頃は何もないですから、良い思い出とか懐かしい思い出とか楽しい思い出とかが多い。どうしても自然と戯れている思い出の方が好きですよね。

須磨)好きな風景というと思い出と繋がることが多いですよね。

そうですよ、僕はそうだと思うんだなあ。自分が育った環境に必ず戻ってっちゃう。

須磨)好きだなって海は何処なんですか?

湘南の海が一番好きですけどね。茅ヶ崎で育ったもんですから、茅ヶ崎そのものが僕を育ててくれたっていう気持ちがあるし、湘南が僕を育くんでくれたという気持ちもありますしね。
戦前、戦中、戦後を茅ヶ崎で過してきたもんですから、「加山雄三通り」が舗装されてない時代から、周りが殆ど田んぼだった時代から育ってますから。食用ガエルの鳴き声がウオーン、ウオーンって夏の夜に響いていたのが記憶に残ってますね。都会育ちの人はそんなこと聴いたことないと思いますよ。
国道134号線のロータリーに米軍の小さい飛行機が降りてきて、タバコ吸って休憩してるんです。車がいなくて松の木も小さくて低くて羽根が引っかからないから、滑走路代りにしょっちゅう降りてきてました。松の木の根をピストルで撃ってたので薬莢を拾うのが好きだった。子供ってそういうの集めるの好きじゃないですか。笛みたいにして鳴らすと小さいのはピーッって高い音が鳴るんです。でかいピストルは太い音が鳴るんです。

須磨)いろんな思い出がありますね。

終戦後、米軍のタンク隊が駐屯し始めたんです。戦車が砂の上をものすごい勢いで走って烏帽子岩へ向けて実戦射撃をやるの。

須磨)烏帽子岩は標的だったんですか?

実戦射撃してる近くで泳いでた。

須磨)怖くはなかったんですか?

怖いというより、不思議な体験をしました。岩に当たるとパッカーンと煙がすごいんです。煙が出てからドーンとすごい音がする。射ったなと思ったら水の中に入るんですよ。カチーンと岩に当たったすごい音がする。顔を出すとそれからドーンと音が聴こえる。空気の方が音が伝わるのが遅いんだ。

須磨)勉強じゃなくて実感として。

密度の濃いものほど音って伝わるのかと思いました。中学卒業の時に「愚感」という論文を書きました。

須磨)なんて利発な坊ちゃんなんでしょう。

なんにもないというのが最高のプレゼントだったと思います。しまいには舟、作りましたからね、14才の時ですけど。
従兄弟と
ニ人で作って烏帽子岩へ行って、海の上から陸地を見る素晴らしさに魅せられちゃって。

須磨)全然違う景色が広がって。

不思議な気持ちになるんですよね。あそこに居るんだな〜って、しょっちゅう眺めてました。岩の上に居るんだという距離感と客観性みたいなものがとっても不思議な風景として自分の心に残るわけですよ。それ以来、大学卒業するまで烏帽子岩へ行かなかった年はないですよ。

須磨)毎年行ってらっしゃったんでですか?

夏休みになると、殆ど毎日のように行ってましたね。

須磨)遊び場だったんですか?

お握りを一人5個ずつぐらい作ってもらって
「おかずは自分で捕りな」なんか言われて、おふくろに。
潜ればサザエが捕れたんでショウユとマキと新聞紙とマッチを舟に積んで、サザエ捕っちゃ焼いて食べた。

須磨)おいしそう!

旨いっていうより、ハラ減ってるからそれと御飯が良く合うんですね。

須磨)烏帽子岩が加山さんにとって一番大切な風景ということになりますか?

一番最初に自分が出会った、大自然との仲が良くて、しかも厳しさを教えてくれた。

須磨)厳しさ?

ちょっとでも時化てきたときは、岩にぶつかる波を見て急いで帰ってきた。

須磨)その烏帽子岩の写真を使ったレコードのジャケットが「フィジーにおいで」ですが、なんで烏帽子岩なの?って思ったんですよ。

フィジーまで写真を撮りに行くのが大変だったからだと思いますが。

須磨)加山さんにとって人生を教えてくれた風景だから使ったんですかね?

そうでしょうね、僕に馴染む風景だったんでしょうね。

「フィジーにおいで」が流れて第一部終了。

11年10月06日新設