厳しかった父 上原謙
三枝)お父さんの上原謙さんは。

あれはもう、僕と違います。あんな天下の二枚目のことは私はわかりません。あれは珍しいくらい良い男。でもね、家に来りゃ全然違うんです。厳しい、すぐに怒る。

三枝)怒りますのん?あんな優しげな。

そんなもん映画の中だけですわ。

三枝)「愛染かつら」や言うといて?

怒鳴りつけて3回ぐらいぶん殴られました。バーンてね。

三枝)殴るには理由があるでしょ。

それが腑に落ちないから家出したんですよ。親父がね、二ケ月ぐらいロケでもって長いこと居なかったから、帰ってきたから、嬉しくってカバン背負って
「お父さん、お帰りなさい!」って言ったら、仁王立ちになってボカーンって殴られて井戸端へすっ飛んじゃった。で、いきなり
「なんで殴ったか、わかるか!」って、顔がピクピクしてるんですわ。
「お父さんが丹精して貯めたセメントをお前は無断で使った」。

三枝)セメント!?

セメント。僕は魚釣りが好きで、池が欲しくって、庭のずっと端の方に穴掘って、砂と石混ぜて池作って、喜んでくれると思ったら、それを
「この物の無い時代に、丹精してためたセメントを無断で使った」って、ぶん殴られたんです。

三枝)しかしですよ、あの天下の二枚目、一本映画に出たらセメント何百キロと買えるんじゃないですか。

いや、それがね、(セメントが)無い時代だから。

三枝)加山さんがそういうお父さんの元で育って、自分の子供に対してはちゃんと出来てるんですか?

そりゃあもう、厳しくしてましたよ。

三枝)えらいいい加減じゃないですか。

ぶん殴った時は、でもね、平手ですから、子供に対しては。それからケツッペタ引っ叩きましたよ。げん骨でもってボカーンってやって傷つけるっていうのは、やらなかったです。
それで僕は家出しました。家のそばが海岸ですから。松林があって、その中にずっと隠れとった。ここに居れば一晩ぐらい、俺は絶対帰らん。いつか仕返ししてやろうとそればっかり考えてましたね。そしたらね、夜、日が暮れてね、7時、8時になるとひもじくなるんですなあ。のどは渇き、腹は減るしえらいことしたなあ。自分で、バカだなあ、しかし、今晩一晩はここで我慢しようと。夜の10時半頃だと思うんですが、遠くのほうからお袋福の声がしてきたんですよ。
「あんた、その辺に居るんだろう?返事をしなよ。」おっ、来たぞ。すぐ返事をするのは癪(しゃく)に障るんで、少し黙ってようと思って。
「大体検討ついてるんだから返事しなよ、わかってんだよ。」少しずつ近づいているんですよ。もう少し待とうかって試行錯誤してるんですけど。
「わかってんだから返事をしなよ、おにぎり持ってきたから」
「おう、ここに居るよ!」

三枝)ははぁ、おにぎりで!?

おにぎりでつられて・・・。
「馬鹿だね、あんたも。」おかかと醤油を混ぜたおにぎりを持ってきてくれて、これが旨いのなんの、何個食ったか、ものすご美味しかったですね。

三枝)大スターの子供やと思えまへんな

そんなん全然関係ないんですよ、家におったら。大スターというのは、商売で、外ではそういうことでしょうが、家は家で厳しい。経済情勢のこともあったし。

 

2012年02月02日新設