トークその3(俳優になった理由〜黒澤監督)

おじさん)俳優になられる時に就職するつもりで俳優になられたと?

普通のサラリーマンになるつもりで居たんです。大学4年の夏休みに。3つ候補があって、一つは
三菱商事、もう一つはアサヒビール。あと一つはどこだったか忘れちゃったんですけど。

おじさん)受けにいらっしゃたんですか?

いや、そうじゃなくて、資料を取りに行って家に置いといたんだ。カントリークロップスの
リーダーが、それを見つけて、こりゃあ何だ?って聞くから、就職しようと思ってって言ったら、
お前何も勉強してないし、やってたのは音楽とスポーツじゃないか!?資産は無いけど、暖簾が
あるじゃないか。それを活かして一儲けした方が良いじゃないかって言ったんですよ。お前は
船が好きだろう?金儲けして自分で船作れば良いじゃないかって言ったので頭の上にポっと灯が
点いて、それ、ありかなあ!?って。大変不純な動機でこの道へ入った。

おじさん)それよりも前って、考えたこと無かったんですか?

なろうと思わなかったし、すごい嫌で。親が有名で居辛いことが多かったんですよね。行くところ
行くところ人だかりがで出来て、のけ者にされてどこかへ預けられたりとかね。動物園行って、
動物見ないで、事務所に監禁されてそのまんま置いてけぼりになったこともあった。そういうの
幼くても結構記憶に残るもんなんですよ。

おじさん)じゃ、いきなり俳優になられたってことですか?

一応、東宝で俳優の先輩が教えてくれるんですよ。滑舌の良い喋り方はどうするとか、早口言葉
などを2か月間練習する時間があった。それから映画に入った。だけどね舞台で下積みをずっと
積んできた人に比べたら心もとないもんですね、やっぱりね。心配ですよね。とにかくやりたい
だけやりゃあ良いんだって。一生懸命やった。演説するシーンがあったんだけど、その気になって
出来るもんだなと思った。

おじさん)デビュー作ですか?

そう、「男対男」。港で働いてる人たちを目の前にして演説するシーンなんだけど、平気で演説
しちゃったんですね。それ見た監督が、お前は大物だって。堂々たるもんだ。大したもんだって。
褒められたのがいけなかったですね。

おじさん)バンド活動されてたから、大勢の前で演奏されてたんでしょ?

音楽はね、やってたんで。でも、カメラが回ってるのはちょっと特別ですね。

おじさん)共演されたのは三船敏郎さんですよね。どうでした?

もう別世界の人だなと思ったね。俺、こんなとこに入って良いのかなと。心もとなさの方が先に
立っててね。東宝さんがお金をたくさん積んで宣伝をしてくれたからアッと言う間に名前が世に
轟いたというか。宣伝で何百社というメディアの人を集めて、東宝の撮影所の所長さんが加賀
百万石の加、富士山の山、英雄の雄、小林一三の三。これを称して加山雄三です、と。そりゃ一発
で覚えちゃうね、みんなね。すごい勢いで売れちゃったわけですよ。竹竿の上に乗せられて、いつ
倒れるか、わからななっていう不安感がず〜っと続きましたね。いつ叩き落されるかもしれない、
人気なんてものはウチの親父見てりゃわかるわね。登りつめたらあとは下るだけ。全然人に相手に
されなくなってるのを見てるから。必ずそうなるんだろう、最初からそういうことを感じたん
ですね。2本目が「独立愚連隊 西へ」という映画ですが、佐藤 允さんとかベテランの俳優さん
を見てると、そこそこすごいんだなあ。迫力ある芝居をしてるしねえ。俺は少尉の役で。おじさん
が太平洋戦争の時、少尉だったんですよ。号令の仕方を教わって。きをつけぇ〜!!かしらぁ〜
なか!!とか。海岸で大きな声でやってたんですよ。

おじさん)出だし、中国軍に囲まれながら全力疾走されて、号令かけっぱなしでしたよね。

あれも嘘ばっかみたいな映画だったけどね。とっても面白いって言われましたけどね。

おじさん)成瀬監督とか黒澤監督とかとお仕事されてますけど、成瀬さんてどんな感じでした?

おとなしい人なんですけどね。お子さんが僕と同級生で居たんで、気持ち的にちょっと安心した
というかね。監督って怖い存在だって思うじゃないですか。絶対的な権力があるって。息子さんが
同級生ですって話したら、打ち解けた気がしたんですよね。だから安心して芝居が出来た。

おじさん)指示とか細かく出される方なんですか?

そうでもないですね。アメだと何度もやらされる。こうしろ、ああしろは言わないんですけど。
もう1回行ってみようか?って。

おじさん)「乱れる」も「乱れ雲」も拝見させていただいてますけど、「乱れる」なんかは、
     それまでの加山さんと違って影が相当あるお芝居されてますね。

芝居というものは自分でないものを演じることだというのは何となくわかってたんだけど、台本に
かいてあることをその人の気持ちになって、こういう性格なのかと考えるんですよ。それで出て
くるセリフの言い回しが良いか、悪いか試されているようなもんでね。監督がOKって言うと、
ああ、これで良いんだと。

おじさん)毎回、試験で答案書いているようなもんですね。

そうですねえ。ただね、黒澤さんと出会ってからは、ガラっと変わった。「椿三十郎」から始まり
ましたけど、一番最初に会った黒澤さんが僕に言ったことは、君は白紙で良いよ。わかりました
って一言しか言えなかった。結局、余計な芝居をするな!お前は白紙で良いんだ、色をつける
のは俺なんだということを言いたかったんですね、監督は。台本を読むときからチョンマゲを
結って、羽織袴を履いて、本身の刀をちゃんと置いて座布団の上に座って台本を読見合わせる。
二人だけになると、加山、セリフは思えば出てくるんだよ。言ってくださったのは、そういう
核心のところだけ。この人、すごい人だなあと。どうして人の心が読めるんだろうとかね、感心
することばかりで。ああ、こんな人が居るんだったら俺はこの世界に残っても良いやと思える
ようになった。

おじさん)「椿三十郎」の方が「乱れる」より前ですね?その時にスイッチが入った?

そう、それまでの間、若大将があったので、いつ辞めようかなと頭の中に去来していて、
タイミングを待っていた。黒澤監督に会った時に、凄い感性の持ち主だと感じてこの人のため
だったら、芝居する気になるなあみたいな。

おじさん)黒澤監督は、普通は白紙で良いよって仰る方じゃないでしょ?

僕は全く知らないですからね。みんなが天皇陛下みたいに接してる人だから。

おじさん)「椿三十郎」は「羅生門」とか「生きる」とか「七人の侍」のあとですから。ほんとの
     巨匠ですよね?

僕は、そう言われてでも、尊敬の念の方が大きくなっていく。怒られたことは1回も無い!

 

期間限定で、加山さんの言葉の音源を掲載いたします。(掲載終了しました)

 

終わり

2017年06月01日新設