渡辺)ここからは世界の黒澤監督について、加山雄三さんに伺っていきます。
改めてよろしくお願いします。
よろしくお願いします。
(黒澤監督の紹介BY黒崎アナ)
渡辺)加山さんは、黒澤監督とは「椿三十郎」の時が初めてですか?
はい、その時に初めてお会いしたんですけど。
渡辺)加山さん、25歳ですね?
皆さんの噂では、ものすごいおっかない人だと、入れ知恵されてたんですけど。一番最初にお会い
したら、ニッコリ笑って。加山、君はね白紙でいいんだよ。いきなり言われてね。
どういう意味かわからなかったんだけど、よく考えたら、余計な知識を入れてくるな、下積みの
俳優さんが、いろいろ引き出しを持ってる。そういう必要はないんだ。ということを僕に最初に
言いたかったんだと。
渡辺)前年に「大学の若大将」が公開されてますが、加山さんとしては「若大将」で華々しく
出ていっているところに、黒澤明監督に呼ばれるっていうのは、どういう気持ちでした?
別世界だなとは思うんですね。「若大将」というのは、僕の学生時代の延長線上みたいなのが、
あったじゃないですか。自由に好きなようにやってりゃいいんだ。ところが黒澤さんのそれまでの
作品、一つ一つを観るとね、すごいじゃないですか!?「羅生門」にしてもね。そこへ俺が出るん
だっていう心構えは、怖いなというか、緊張というかそういうものは、ありましたね、やっぱり。
渡辺)黒澤監督は、よく完璧主義と言われてますけど。実際の現場で、黒澤監督流というのを
感じられたことは?
最初、余りにも優しく迎えてくださったことで、普通でいいんだと思えたり、だけど、話したり、
いろんな動作を見てるうちに、この人、すごいや!他人の心まで読めるんじゃないかな?って。
ものすごい感性を持ってるなということを感じたわけね。この人だったら、一緒にやっていきたい
なって。生意気だけど、そう思ったんですよ。加山、セリフはね、思えば出るんだよ。
渡辺)思えば、出る!?
思わなきゃ、出ないんだ。つまり読んでるっじゃダメだよ。
渡辺)自分の中に気持ちとして入ってなきゃダメなんだ。
それを思ったら出てくる。それが自然なんだよな。台本なんて別に読まなくてもいいよ。
そんな!?と思うじゃないですか?いきなり着物着て、ちょんまげ付けて本当の刀を右に置いて
座布団の上に正座して、初めての本読み。
渡辺)本読みで、衣装もかつらも、刀も持って?
撮影所の中では刀を差しておけ!と。
渡辺)侍のまま撮影所の中に居ろ!と?
そうすると刀の重みで、帯が曲がるはずだよ。歩く時にも刀があるということを意識しだす。
それは慣れなきゃいけないんだから。撮影所を一日中それで歩いてる。そういうところがね、
この人すごいな!と、僕は、まず思って、嬉しくなっちゃうんですよ、僕。そういうのって。
リアリティーを追及する精神というのは、映画は作りものなんだけど、どこまでリアルに出来る
かっていうところだってのがね。黒澤さんの場合はものすごい能力、才能があるんだなあと
思ってね。感心と同時に感動ですよ。
黒崎)加山さんと共通項があるなと。画家を志していたとか、外国航路の船長になるのが夢だった
とか。そういう似てる感じっていうのは、あったんですか?
同じなんですよね。感性とか観察力とか似てるなあと僕は思ったんですよ。僕は大学時代に心理学を
専攻してるんですよ。人がどういう風に考えて、どういう表情をするかというのは、ものすごく
興味があった。それはいい成績だったんですよ。それだけ。あとは大したことは無い。それで、
その時に感じたのは、黒澤さんもリアリティーを出すために、他人の事をよ〜く観てる。
この人(役者)が、やってることが、邪魔だと思ったりすることが多いんですよ。僕は余計なことは
何もしないからね。で、黒澤組に入ったら他の作品には出るな!出させてもらえないんですよ。
暇なんですよ!僕は泳ぐのが好きなんで海へ行って真黒になってもいいですか?って聞いたら、
ああいいよ、どうせ白黒だからって。そういう風に言われてね、いい人だなあと思って。だから
撮影があろうが、なかろうが、朝5時半頃起きていい波だったら海へ行ってサーフィンやって、
くたびれ果てて撮影所へ入るわけです。それで一日中、侍の姿で撮影所に居ろ!と。ご飯食べに
行く時も刀を持っていって、それを右側に置け!と。右利きが多いから左に置くと闘う意思があると
思われるからと。そういう作法から、何からいろいろ教わったです。
渡辺)所作、仕草は、やってないと出ない!?
そういうところから、僕はいいなあ、いいなあ、いいなあ、大好きになっちゃって。
普通だったら、とんでもないと怒られるようなことをいっぱいやってるのに、お前は得だなあ、
監督に好かれてよ〜。みんなに羨ましがられるエピソード、いっぱいありますよ。
「赤ひげ」を撮ってる時ですけど、船の免許を取るのに、国家試験は日が決まってるんで。
(撮影を)休みにしてもらいたいと思って、黒澤さんに直に言えばいいと思って。すいません、
お願いがあるんですけど、船の免許の国家試験受けるんで休みにして欲しいんですけど、三船さんも
一緒です。って。三船さんが一緒だと、ああいいよってなると思って。
渡辺)同時に二人居なくなっちゃいますもんね。
三船さんに一緒に受けましょうって相談して承諾を得て、それから黒澤さんのところへ行って、
休みにしちゃった。二人で試験場へ行った。三船さんの答案用紙の提出が早いのなんのって。
15分ぐらいで全部書いて出しちゃった。放棄したのかなと思うくらい早かった。僕なんか延々と
一つづつ。当時の小型船舶操縦士というのは、問題が大変なの。操縦だけじゃなくて、機関士の
方もあるんです。法律的なことも。
渡辺)それが「赤ひげ」の(撮影の)最中だったというのがね。
それで二人とも合格しました。
渡辺)素晴らしい!じゃ、ここで黒澤明監督の映画の雰囲気を伝えるという意味でも、曲を
ご紹介しようと思います。1961年の作品で「用心棒」。これは「椿三十郎」につながる
三十郎シリーズの1作目です。「用心棒のテーマ」です。
「用心棒のテーマ」 |