「船員免許」    

卒業してこの世界に入って間もなくだねえ、昭和39年。
ちょうど、「赤ひげ」の撮影を撮ってたときに、光進丸の第一世が出来て、免許証を取っておかないといけないと思って。
試験の日にちが決まってるんです、国家試験だから。

その日が撮影と重なったんで、どうしようかなって思ったけど、これは直談判しかないって黒沢明監督のところへ行って
”黒沢監督”
”なんだい”
”実は僕、6月19日休みをもらいたいんだすけど”
”なんで”
”国家試験受けるんです”
”なんの?”
”船のです”
”ああ、そうか”
”三船さんも一緒です”って言ったら
”いいよ”
そのときに三船さんがリーディングアクターでしょう、三船さんが休みを一緒に取れば、休ませてもらえるだろうと。
一日休みにしちゃった。

二人で横浜に、
”おお、こんなの簡単だなあ”と三船さん。
でも出来があんまり良くなかったらしいんです。

受かってだいぶ経ってから試験官にきいたんですけど、電話で連絡とったときに
”どうでしたか?”って聞いたら
”貴方はたいしたもんだね、1,500点満点で1,480点だよ”
”満点じゃあなかったんですか?”
”残念ながら「膨脹」という字の脹という字が間違ってた、あれはね法律上では月辺なんだよ、弓辺じゃないんだよ”
”だったら、ひらがなで書けばよかったですか?”
”ひらがなで書いたら良かったねえ”だって。
”三船さんはどうでした?”って聞いたら
”ちょっと言えないくらいだね”って
それを撮影所で三船さんに
”僕はすごくいい点でしたよ、三船さんやっと通ったみたいですね”って言ったら、
三船さん怒ちゃって、免許をビリビリっとやぶいちゃった。
あの人短気だねえ、ほんとに「用心棒」みたいな人だよ。
”いいんだ、こんなもの!”(物まねで)って怒るの。
怖ぇのなんの、しょうがないから僕はそれを集めてつなぎ合わせて
”一緒に取った記念ですから大事にしてください”って渡したら
”いやあ、ありがとう”って。
それで彼はモーターボート買ってちゃんと乗るようになっって
”ちゃんと役に立ってるじゃないですか”って言ったら
”いやあ、君のお陰だ”

08年04月03日新設