加山雄三スペシャル 
 太平洋クルージング
  〜光進丸・歌・そして夢〜
前回、ご紹介した「太平洋ど真ん中!!」という番組が、二週に分けて放送されたとばかり思ってたんですが、二週目は「太平洋クルージング」という番組が放送されてました。
今回は、その番組をご紹介します。
海は雄雄しく、美しい永遠なるロマンの源であった。男達を魅了して止まぬ偉大な海。男達はその海との戦いに挑み続けたのである。

そしてここにもまた、海に魅了され、海に挑み、海を愛し続ける男がいる。加山雄三。彼は今、自分の船、光進丸の船長として、小笠原諸島、父島、二見港からサイパン島に至る初めての外洋航海に出発しようとしている。

この航海に向けて、クルーたちによる光進丸の出港準備が着々と進められる。

二見港から間もなく出航の
光進丸。

出航準備中の加山キャプテン。
東京からサイパン島までの距離およそ、2400km、飛行機で行けば、わずか3時間の距離である。
だが、小さな船での旅は、決して容易なことではない。小笠原とサイパンの間には、波荒い太平洋が横たわっているのである。外洋航海には多くの危険がつきまとう。それを乗り切るためには、優秀な船と有能なクルーたち、そして何よりもそれら全てを統率する、船長の経験に培われた技術と勘が必要なのだ。それに加えて、外洋航海の資格を得るためには、厳しい試験にもパスしなければならない。

なぜ、それほどまでして、と人は言う。だが、自分の船と自分の力で外洋に挑戦すること、それは加山船長が幼い頃から育み続けた大きな夢なのである。

航海とは一つの人生だと船長は言う。その人生の多くを海とともに過ごしてきた男の40年来の夢が今実現しようとしているのだ。航海に必要な燃料や大事な食料、それらの積み込みを終え、準備万端、要約一段落である。 

だが出航の日は、生憎の悪天候に見舞われた。止む無く船長は出航を断念。この機を利用して、クルーたちとの綿密なミーティングをもう一度、繰り返すことにした。

440海里ほどあるんだな。
だから、・・。コンピューターに位置をインプットしちゃう。
たとえばナイトワッチで・・。

この航海は、船長の日頃の忙しいスケジュールをぬってのことだけに、時間はかぎられている。しかし無理な計画は危険を招く。綿密に組まれた航海プランに、再度の慎重な検討が重ねられる。

クルーたちとの綿密な
ミーティング。
翌日、まだ風は残っているものの、雨は上がった。
船長は出航の断を下す。それにともなって、出国手続のため、税関の役人が
乗船してきた。
「出国・通関手続き」
税関)原本を見せていただけますか?

国籍証書と船舶証書の原本を持ってきて。

税関)キャプテンの印鑑を。

佐野君、印鑑を。

税関)追加になったものは?

「出国・通関手続き」
外洋航海のための、様々な証明書類が取り交わされる。
小笠原二見港から、船による出国は過去にほとんど例が無い。
不慣れな手続だけに、思わぬ時間を取ってしまった。

税関)これが、この船が外国に行ける船になったという書類です、保管しておいて、求められたら提示してください。ここに帰ってきたときもこれが必要になりますから。

はい!

要約、出国手続を完了。
出航前の清めの杯が、船長とクルーたちとの間に交わされる。
どうか今回の航海も、皆無事でありますように。
初めて挑む外洋だけに、切実な願いが込められる。

(出航前の、杯を交わす)

さようなら、二見港。お世話になりました。
小笠原の人たちの暖かい声に送られて、光進丸は滑らかに港を滑り出す。出足快調だ!

「地球をセーリング」(BGM)

二見港を出て約2時間、航海のコース上、最後の陸地、小笠原、母島を過ぎる。これから先、マリアナ諸島までの間、陸地を見ることは無い。

さあ、ここからは外洋である。一路、サイパン島のある、マリアナ海域へと向かう。行く手に横たわるのは1300海里に及ぶ波荒い太平洋なのだ。

光進丸、それは、ジャイロコンパス、電波航法装置、海水ろか装置、ゆったりとくつろげるキャビン、ギャレーすなわち調理室。バースと呼ばれるベッドルームなど、数々の近代設備を備えたパワーボートである。だが、海の上には道がない。
ジャイロコンパス。
四方を水平線に囲まれた海洋の真っ只中では、自分の位置を知り進路を定めるには、これら万全の設備に頼るほかないのである。そしてこれらの設備を操るクルーたち、彼等はそれぞれの役割に応じた責任を果たし、全員で船長を助け、船の安全な航行を計る絶妙なチームワークが必要とされる。

光進丸のクルーは全部で5名

船長。 副船長の村上時克さん。
通信士の佐野三治さん。 機関長の中後 寛さん。
コック長の大沢武史さん。 パーサーの北川欽三さん。
二見港を出航して二日目、正午計測位置、北緯23度、東経143度39分、光進丸は前線を通過、さらに、夜に入って強力な雷雨に見舞われた。緊張する船内。船長の的確な判断が要求されるときだ。この事態に船長は一時、進路を変更、雷雲を避ける指示を出した。光進丸には落雷に備えて避雷針がある。だが、落雷時の安全性は一度も試されていない。船の安全を第一に考え、たとえ僅かな危険をも、慎重に回避する責任が船長には課せられているのだ。

24マイルのところに次のヤツ(雷雲)がある。今現在の12時方向に。間を抜けて、18マイルぐらい無駄足踏むことになるけど。時間が早いから、いいか。(雷の音)随分近いなあ。

この進路変更のお陰で時間の遅れは出たものの、船と乗組員は事無きを得たのである。

一夜明けて快晴!海の様子は南方の海らしくなってきた。いよいよマリアナ海域に入ったのだ。待望のマリアナ諸島最初の島モウグ島を通過する。次に視界に入った島は、アッソングソン島、現在では無人島になっている島である。

光進丸船長命名、マリアナ美人、北マリアナ美人。あの島の山を登頂した人はいるのかな?ええ塔がある?へええ。

早速、資料を調べる船長。
資料によると、この海域に点在するいくつかの小島では、カロリアン人という島民が少数ずつ生活しているらしい。

資料を調べる船長。

なんか島が見えてきたよ、70マイルぐらい離れてると思うけど、良く見えるねえ。視界がいいねえ。
空気がよっぽど綺麗なんだ。

「海よ永遠に」(BGM)

南海の心地よい風当たり、しばし疲れを癒す船長。どうやら航海は順調に進んでいるようだ。

そして次の島は、噴火のあとを思わせる煙を上げている。これが活火山の島、パガン島である。
資料によると火山島であるこの島は、1981年5月に一度目の噴火があるまで、9家族66名の島民が暮らしていたが今年二度目の噴火以来、島民はすべて避難し、現在では無人島になっている。
船長は黒煙を上げるこの島に魅かれ、航海のスケジュールを変更して、島に立ち寄ることにした。噴火の煙のため、太陽も霞んで見える。このパガン島は火山灰に覆われ、抱擁たる風景を呈していた。丘の上には、何かの建物も見える。明日は上陸して探検してみようと船長は決意した。

「愛し子よ」(BGM)

信宏)信宏です。お父様元気?今どの辺にいるのかなあ?今日はおばあちゃまのお墓参りに行ったんだよ。昨日はおばあちゃまの命日だったから、みんなで「お父様が無事に航海をして元気に家に帰ってこれますようにおばあちゃま、お守りください」って言ってきたよ。
ぼくは今ね、すごく勉強頑張っているから、お父様も身体に気をつけて頑張ってください。帰ってくるのを楽しみにしています。じゃあね!
徹大)徹大です。お父様お手紙ありがとう、ぼくは毎日お父様のことを思っています。今頃どの島に居るのかなあ?とか、何をしているのかなあ?とか、早く帰ってきてほしいです。ぼくは毎日一生懸命、勉強して頑張っているから、また100点をとりました。
大きくなったら、ぼくもお父様の船で世界中をクルージングしたいです。お父様元気で頑張ってね。待っているよ。本
真悠子)真悠子です。お父様元気?私は毎日、えみちゃんと仲良く学校に行っています。学校から帰ってきたら、この間種を蒔いた朝顔に、水をあげています。昨日可愛い芽が出ました。今年の夏には綺麗な朝顔が咲くと思います。お父様、早く帰ってきてね、私が育てた朝顔をお父様に一つあげるからね。

絵美子)えみちゃんです。お父様、えみちゃんは毎日お利口に学校に行っています。今日はおばあちゃまのお墓参りに行ったの。「こんなに大きくなりました」って報告しました。お父様早く帰ってきてね。

あ〜あ、ありがとう。

日本から持ってきたミニバイクを駆っての島巡りである。島には溶岩がゴロゴロしており、噴火の激しさを物語っている。船長はまず、荒れ果てた大きな建物に入ってみた。

これ、学校の跡ですね。

(学校があるんですか)

小さな子供用のイスとか、積み木だとかね、本やなんかがいっぱいあったり、先生がおそらく使っていたと思われる机があったり地球儀の壊れたのがあったり、黒板がありますねえ。肺活量を測る機械みたいなものもあるねえ。

「We are Here! 
 Kohshin Maru」

(教科書は何語なんですか?)

英語ですね、やっぱ。本が沢山ある、結構立派なもんだよ。黒板があります。ここに我々が来たことを記しておきます。

「We are Here! Kohshin Maru」

無線で、光進丸のクルーと交信しながらの廃屋探検である。

薬のビンが散乱してますよ。人は居ないみたい。

つづいて太平洋戦争当時のものと思われる、飛行機の残骸に行き当たった

(その島の上空をとおりかかって落ちたんですかね?)

だろうと思うよ。残念ながら羽根のマークもわからんね。大砲があるよ!

(守備隊が居たと思うんで、その大砲でしょう)

そうだと思う。日本軍のみたいだね。この大砲と墜落機のすぐそばまで溶岩が流れてきてるは。あっちいよ。35℃以上あるんじゃないか。

(資料によると、マンゴなんかの果実が取れるとかいてありますがありそうですか?)

椰子のみしか見えないね。じゃあ帰ります。

こんな南海の小さな島にも残されている戦争の傷跡、そして火山灰と溶岩に覆われた人っ子一人居ない廃墟との異様な取り合わせは船長に強烈な印象を与えた。このあと、日本軍の殉職碑を発見、船長は黙祷を捧げた。

墜落機を見ながら、報告。
「冒険者たち」(BGM)

マリアナ海域、それは魚の宝庫でもある。パガン島探検を終えた船長は、島の裏側でトローリングを試してみた。イソマグロやバラクーダと呼ばれる大カマスが次々と釣り上げられる、トローリングは大漁だった。

釣りあげた魚を、そのまま刺身にして食べる食事の味はまた格別、船上生活の最も楽しい一時である。その日の宴会は夜遅くまで続けられた。クルーたちの表情にも一様に余裕がうかがえる。「ワッチ」と呼ばれる3時間交代の見張り番も今夜はそう辛くは無い。

明日はいよいよサイパンに着くのだ。

大漁だ! 吊り上げた魚の刺身で夕食。
小笠原を出発してから五日目の朝、ついにサイパンの島影が見えてきた。予定よりも3時間半も早い到着である。

サイパンの灯りが見えたな。ああ良く走ってきたもんだ。
1334海里。

まず入港許可及び検疫を求める、イエローフラッグが掲げられる。続いて無線でイミグネーションオフィスと連絡を取り臨検を求める。そして船を港の沖合いに泊め税関員を待つのだ。出国するときと同じように、煩雑な入国手続を済ませなければ入港できないのである。

「サイパン入国手続き」

入国手続1。

入国手続2。

現地の税関は、今ではほとんど関係ないと思われる健康保険証とか、積んでいる食料のリストを出せとか、船からの上陸となるとかなり煩そうである。

要約上陸許可が下りる。だが、何はともあれ、ついにサイパン島へ到着したのだ。南海の楽園、サイパン島、その美しい自然が、はるばる1300海里を渡ってきた一行を暖かく迎えてくれた。そして、永い航海を無事終えた海の男達は、大自然の懐に抱かれて思いっきり羽根を伸ばし、目的を達した充実感を満喫するのである。

サイパンの海で遊ぶ1。 サイパンの海で遊ぶ2。
サイパン風景1。 サイパン風景2。
「アロハレイ」(BGM)

今一つの夢を実現した、船長の胸に浮かぶのは何なのだろうか?今回の航海の様々な思い出、クルーたちの事、仕事の事、日本に残してきた家族の事、そしてもしかしたら、次の新たなる計画がもうすでに心の中に浮かび始めているのかもしれない。

船長の胸に浮かぶのは?
「光進丸」(BGM)

一つの旅が終わった。だが、それはもう一つの新たな旅の始まりでもある。なぜなら、男達の夢は、そしてそのロマンをかきたける海は限りなく広いのだから。

「航海は人生に似ている。凪あり、荒海ありの海にもまれ、これを乗り切った船は、やがて、船体を休めに母港へ帰る。そして、私も疲れた体を休める場所へと帰る。なつかしい家族のもとへと・・・。」

終わり。

10年10月28日新設